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神戸地方裁判所 昭和40年(行ウ)42号 判決 1967年1月12日

原告 株式会社神戸富島組

被告 運輸大臣

訴訟代理人 鰍沢健三 外七名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、請求原因のうち第一、第二項の各事実については当事者間に争いがない。

二、そこで本件免許申請却下処分の瑕疵の有無について判断する。

(1)、港湾運送事業法第六条は、港湾運送事業の免許基準として、港湾運送の需要供給量のバランス(同条第一項第一号)、事業を適確に遂行するに足る労働者及び施設を有すること(同条同項第二号)、事業の責任範囲の明確性(同条同項第三号)、経理的基礎の確実性(同条同項第四号)を規定し、免許をしようとするときは右の基準に適合するかどうかを審査して、これをしなければならないとしている。

よつて原告が右免許基準に適合するか否かについて検討する。

(2)、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告は神戸港において一般港湾運送事業のうち、荷主の委託を受けて行う個品運送貨物のはしけ運送及び沿岸荷役、いわゆる海運貨物取扱事業に限定してその免許をうけようとするものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、前記各免許基準はそれ自体としてはかなり抽象的な定めかたをしており、したがつて港湾運送事業の免許については運輸大臣の裁量に委ねられるところが多いのであるが、そのうち事業遂行のための労働者及び施設に関しては旧港港運送法施行規則(運輸省令第四七号)において具体的画一的な基準(ただし旧法時におけるものであるから登録基準)が定められていた(乙第二号証参照)ことを考慮するとき、法改正の趣旨からして、新法における免許基準は少くとも右旧法時の登録基準を下廻るものではないと解される。

そうとすれば、当該事業遂行に必要な労働者及び施設としては少なくとも(イ)上屋五〇坪(約一六五・三平方米)以上又は野積場一〇〇坪(約三三〇・六平方米)以上と(ロ)現場職員六名以上を有することの外(ハ)はしけ五〇〇積トン以上及び引船一隻以上を有するか、それとも沿岸労働者五名以上並びに機械一台以上又は沿岸荷役用の器具及び器材一口分以上を有することが要求されることになる。(前記規則別表第二の一般港湾運送事業欄の第一郡港欄中の海運貨物取扱事業の項参照)。

しかるに、この点につき原告において何らの立証がないのみならず、成立に争いのない乙第七号証によれば、原告が本件免許申請をなした当時及びそれ以後も、原告の有する労働者は現場職員五名とトラツク運転手一名のみで、沿岸荷役作業に従事する労働者は一名ももたず、前記乙第一号証の免許申請書に記載されている荷役機械ゴムベルトコンベアー、ホークリフトは保有していない(四輪トラツク一台を所有するだけである)ことが認められ、また右乙第一号証によれば原告は借受上屋二棟のうち一棟についての搬出入の作業を直営し、他の一棟についての搬出入作業とはしけ運送はすべて他業者に下請けさせるとして免許申請していることが認められ、右に反する証拠はない。

そうすると、原告は労働者の点において法第六条第一項第二号の基準に適合していないことになり、また右下請の点は法第一六条に違反する面があるといわざるをえないということを考慮すると、結局当該事業を適格に遂行するにたる作業組織を有するものとは認めがたいことになる。

(3)、つぎに成立に争いない乙第八号証、前記乙第七号証によれば、原告会社においては従来から役員の交替が激しく、本件免許申請に関して神戸海運局が原告会社代表者と面談すべく再三の連絡をはかつたが、その連絡すらもつかないような状態であつたことが認められ、右をくつがえすに足りる証拠はない。

そうすると、責任範囲が明確な経営形態であることという法第六条第一項第三号の基準に適合するものとは認めがたいことになる。

(4)、前記乙第七号証によれば、原告が昭和三九年四月から翌四〇年三月までの一年間に取扱つた貨物は六、四〇七トンであること、原告は昭和三八年四月から翌三九年三月までの決算において一六三万四、〇〇〇円の利益をあげているが、そのうち一四〇万七、〇〇〇円は借受け上屋二棟のうち一棟の大部分を白鶴酒造株式会社に転貸したことによつてえているもので、港湾運送事業による収益は三六万五、〇〇〇円にすぎないこと、また成立に争いのない乙第九号証によれば、神戸市から一時使用の許可をうけていた公共上屋(第四突堤R号上屋)について使用料の滞納のためその使用を停止されている状態であることが認められ、右をくつがえすにたりる証拠はない。

そこでこれらの事情を総合すれば、原告の事業の経理的基礎が確実であるとはいえず、法第六条第一項第四号の基準に適合するものとは認めがたい。

(5)、前記乙第七号証、成立に争いない乙第五、同第六、第一〇、第一一号証によれば、港湾運送事業の免許にあたつて、被告としては既存業者の経営を継続しうるように指導する方針のもとに、原告会社についても実態調査の結果について面談すべく原告会社代表者の出頭を求めたが、原告会社はこれに応じなかつたため、被告は指導の余地なきものとして昭和四〇年七月三日付で運輸審議会に諮問し、同年八月一七日付の同審議会の答申をえて、原告の本件免許申請を却下したものであることが認められ、原告が請求原因第三項、同第四で主張するように、本件免許申請を却下するにあたり被告が法の解釈適用を誤つたということ、又は不公平な取扱いをしたということ、もしくは行政指導の点につき被告に手落ちがあつたということはいずれも認められない。

三、以上の点からして、被告が原告の本件免許申請を却下したことに何らの瑕疵も認められないから、原告の本訴請求は理由がないものと認めこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田久太郎 保沢末良 河上元康)

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